犬の椎間板疾患(椎間板ヘルニア)
Prepared for
The Dachshund Club of America, Inc.
by
Patricia J. Luttgen, DVM, MS
Diplomate, American College of Veterinary Internal Medicine, Specialty of Neurology Denver, Colorado
Copyright 1993
(This is primarily a "text only" version. A few sketches have been included to aid in understanding.)
目次
椎間板疾患は主に神経性の障害をもたらします。犬と人間で頸椎の椎間板障害では同じような症状を示しますが、胸腰椎部(背中の中ほど)では、それぞれに特徴的な症状を示します。人と犬の最も大きな解剖学的な違いは、脊髄の末端がどの椎骨にあるか、ということです。人では脊髄の終末は2番目の腰椎骨にあり、それ以降、脊髄は馬尾神経(馬のしっぽのように細かく分かれた神経)となって残りの腰椎椎骨を通って仙骨に至ります。犬の脊髄終末は6番目の腰椎骨(下半身)にあります。馬尾神経は残り一つの(7番目の)腰椎骨を通って最後部の仙尾骨に至ります。
どうして人と犬で胸腰椎部の椎間板障害の症状が違うの?この問いに答えるために、まず、人と犬の体形の違いと背骨と椎間板に加わる力の方向を見てみましょう。人が立って歩くときの衝撃のほとんどは足から背骨に沿ってまっすぐ上に伝わります。腰椎は衝撃を最前列で吸収し分散しています。腰椎椎骨は胸部の肋骨に固定されていないので(肋骨は12対の骨からなり上部の7対は胸骨と結合し下部の5対は結合していない)、背骨が回転する力も同じように吸収しています。そのため、人の腰椎椎間板は傷害を受け易く、ヘルニアを引き起こす危険性が一番高いのです。椎間板ヘルニアでは、突出した椎間板が脊髄そのもの、もしくは神経根を圧迫するため非常に大きな痛みが生じますが、足が麻痺することは滅多にありません。それに対し、犬は四つ足で歩くので歩行の衝撃は背骨に対して直角に加わります。少し高いところから犬が飛び降り前足から着地すると、衝撃のほとんどが背骨に沿って伝わるので個々の椎間板に非常に大きな力がかかってしまいます。そのため、非常にヘルニアを起こしやすいのです。その上、動きの制限されている胸椎と制限の少ない腰椎のつなぎ目でねじる力は最も大きくなります。それゆえ、最も椎間板ヘルニアを発症しやすいのは胸椎と腰椎の接続部分ということになります。そこでは、突出した椎間板によって脊髄が圧迫されます。このような犬の胸腰椎の解剖学的な特徴から単に足の痛みだけでなく更に悪い症状(下半身の麻痺)が考えられます。残念ながら、脊髄損傷による犬の後肢の完全な麻痺はよく見られます。
脊椎は主に四つの部分、頸椎と胸椎・腰椎・仙椎に分けられます。頸椎には7個の椎骨があり、胸椎には13個、腰椎には7個、そして仙椎には3個の椎骨がそれぞれあります。尾椎椎骨の数は犬種によって異なります。椎間板は椎骨と椎骨の間、2番目と3番目の頸椎の間から7番目の腰椎椎骨と1番目の仙椎椎骨の間に存在します。3つの仙椎椎骨は一つの骨として繋がっており椎間板はありません。また、椎間板は尾椎椎骨の間にもありますが、臨床的にはさほど重要ではありません。

椎骨は主に三点で互いに結合しています。椎間板は椎骨の間にあって二つの椎骨の面をつないでいます。椎骨の末端は軟骨性の薄い膜(軟骨終板)で覆われており、椎間板の繊維性の部分がこれら軟骨終板と結合して、椎骨をつないでいます。また、2本の靭帯(背側縦靭帯と腹側縦靭帯)が上下で椎骨の結合を補助しています。椎骨から伸びた二本の関節突起が関節(間節包、関節軟骨、滑液を持つ完全な関節)を形成しています。椎骨はこれらの他にも数多くの筋肉、腱、及び靭帯によって互いに結合しています。
椎間板は大きく二つの部分、線維輪と髄核、に分けることができます。線維輪はゼラチン様の髄核を包む多層の線維状組織です。この線維は外側に向かって螺旋状に巻いており、椎間板に加わるあらゆる方向からの力に対応できるようになっています。線維輪の最外層はT型コラーゲンで、髄核を直接囲っている内層は線維軟骨様の物質でできています。髄核は椎間板の上から1/3ほどの片寄った位置にあります。このため、椎間板ヘルニアのとき、髄核は上(脊髄)の方に飛び出しやすいのです。髄核はコラーゲンとゼラチン質からなり、豊富に水分を含んでいます。ゼラチン質の成分はグリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラチン硫酸です。これらの含量は犬種によって違い、椎間板ヘルニアの起こし易さと関係があります。
椎間板に血管は通っていないので椎間板への栄養供給と老廃物や代謝産物の交換は、椎骨の端にある軟骨終板と線維輪の最外層の血管網を介した拡散によって行われています。成人(犬)後は年齢と共に血流量が減少するので、椎間板の水分含量も減っていきます。
髄核や線維輪内層に神経は通っていませんが、線維輪の最外層や靭帯には感覚神経が通っています。そのため線維輪外層が引き伸ばされたり裂傷が生じると、いわゆる椎間板性の痛みが走ります。
椎骨は中央に窪みを持ちこれが一列に並び脊柱管を形成しています。脊髄はこの脊柱管の中にあります。脊髄と脊柱管の大きさは脊椎の場所によって変わります。頸部と腰の下部では脊髄の回りに空間(硬膜上腔)があります。胸腰部の脊髄は脊柱管のほぼ一杯に詰まっており、硬膜上腔は非常にわずかな隙間でしかありません。このようなことからも、胸腰部の椎間板ヘルニアの病状が非常に悪いことが推察されます。
椎骨と椎骨の結合部分には脊髄神経や血管が脊柱管に出入りするための「窓」が両側に開いています。この「窓」は椎間孔と呼ばれます。一つの神経は一つの椎間孔を通るので、脊髄を一対の神経が出ている椎骨に相当する番号をつけた部分(セグメント)に便宜上分けることもあります。頸椎には7つの椎骨しか存在しませんが8対の神経が存在します。最初の一対は一番目の頸椎椎骨の前にあり、2番目の神経対が1番目と2番目の椎骨の結合部分から出ているからです。残りの部分についても、椎骨一つについて一対の神経があります(13個の胸椎、7個の腰椎、3個の仙椎、そして尾椎)。頸部と胸部では脊髄神経は相当する番号の椎骨の中に存在しています。腰部で脊髄は以降の椎骨の数だけの神経(馬尾神経)に変わり、それらの神経が脊柱管の中を通っています。
脊髄は髄膜で保護されています。最内層の軟膜には血管が張り巡らされ、神経系に栄養の補給と代謝物の除去を行っています。軟膜の外側にはクモ膜があります。クモ膜と軟膜の間にはクモ膜下腔と呼ばれる隙間があり、そこを脳脊髄液が流れています。最外層には最も強固な硬膜があります。各脊髄セグメントの運動神経と感覚神経線維は、保護膜である髄膜の内部では一緒になっていて脊髄神経と呼ばれます。これが髄膜を出ると末梢神経になります(下図を参照)。髄膜には髄膜神経と呼ばれる数多くの感覚神経が分布しています。椎間板が突出すると髄膜神経が圧迫され、更に炎症が起こり非常に強く痛みます。また、神経自身も圧迫されているので非常に強い痛みを発生します。

脊椎は運動能を保ちながら結合している筋肉や骨を支え、非常に繊細な神経系も保護しています。椎間板は椎骨と椎骨の間にあるクッションで背骨に加わる衝撃や障害をやわらげています。
椎間板は圧力をうまく分散できるようにできていますが、脊柱折り曲げようとする力とねじる力には非常に弱いのです。圧力がかかると椎間板の髄核と線維輪は協調してその圧力を支えます。髄核は圧力を加えられても比較的縮みにくく放射状に広がろうとする性質があります。線維輪はベルトのように髄核を巻き締めて保護しています。このような構造によって、クッション機能を持ち衝撃が直接椎骨に伝わることを防いでいます。椎間板の衝撃吸収能力は大変高く、この能力を超えるほど大きな衝撃が加わると椎間板が損傷されるよりむしろ椎骨が傷ついてしまいます。
線維輪はねじられると容易に損傷してしまいます。ねじられるとき髄核はボールベアリングのような働きをします。脊椎が長軸の回りに回転すると線維輪の約半分が回転を抑制しようとし、残りの半分は縮むか緩むだけです。そのため線維輪が傷つき炎症が起きてしまいます。
長年、繰り返しねじられていると線維輪の耐久性が弱まり、衝撃を吸収する能力も弱くなります。椎骨間関節包や傍脊椎筋・脊柱靭帯が椎間板関節が極端に曲げられることを防いでいるので、線維輪は大きなダメージを受けるほど折り曲げられることはありません。しかし、これらの支持組織が障害や疾病によって弱くなると、線維輪は強く曲げられ結合面から剥がれ易くなり衝撃吸収力が弱くなります。
椎間板異常は組織化学的に(1)軟骨形成異常と(2)非軟骨形成異常または類線維症の二つのタイプに分けることが出来ます。軟骨形成異常は軟骨の不完全な発達または軟骨組織への栄養供給の不足により発症します。人では通常よりも小さく手足は極端に短くなる小人症の原因(発現型)として知られています。軟骨形成異常の素因を持つ犬種、例えばダックスフントは不釣り合いに短く角張った四肢を持っています。しかし、軟骨形成異常の素因を持った犬すべてがその形質を発現するわけではありません。他の犬種、例えばミニチュアプードルやビーグルは組織化学的には軟骨形成異常性の椎間板を持っていますが、外見で見分けることは困難です。
軟骨形成異常の子犬の椎間板(約9ヶ月齢)は外層の比率が内層に対して大きくなっており、内層の細胞が健常な椎間板で認められるようなはっきりとした方向性を示さなくなっています。髄核はほぼ完全な線維軟骨に変わり、正常細胞はほとんど認められなくなります。他方、非軟骨形成異常(類線維症)では細胞内マトリックスが失われ線維化し脊索細胞になってしまいます。
椎間板の耐圧は(1)髄核の水分含量(水分含量が高いと弾性も高い)と(2)線維輪の弾力性の二つ因子で決まります。これらの因子は椎間板の生化学的な組成に大きく依存しており、年齢と共に変化します。
軟骨形成異常と非軟骨形成異常(類線維様)の椎間板の生化学的な違いは生まれてまもなく明らかになります。軟骨形成異常の椎間板変性は軟骨様異形成と呼ばれ、髄核が軟骨に置き換わっていくものです。変性は急速に起こり、生後6ヶ月から進み始め、髄核の辺縁から中心へと進んでいきます。生後6から12ヶ月の間に椎間板のコラーゲン含量が乾燥重量の30から40%に達するほどの劇的な上昇が認められます。他には、生後3年くらいで総グルコサミノグリカン含量が同じ年齢の健康な犬に比べ30から50%低くなります。その結果、髄核の水分含量が極端に低くなり弾力を失って衝撃を吸収することが出来なくなってしまいます。同じように変性の進んでいる線維輪への負荷がますます大きくなって線維輪の弱い部分(脊髄直下の比較的薄い部分)が破壊されます。こうなると、髄核が突出し脊柱管の中にある脊髄や脊椎孔から背側に出た神経根を圧迫するようになります。
これとは対照的に、非軟骨形成異常(類線維症)の椎間板は8から10歳で線維化による変性が認められます。この変性はゆっくりと進み椎間板は徐々に弾力を失っていきます。変性の進行と共に、髄核の多糖類(コンドロイチン硫酸とケラチン硫酸)の含量が増大し、徐々に線維輪と髄核の境界がぼんやりとしてきます。そして、線維輪は少しの衝撃でも容易に損傷を受け、髄核が線維輪へ突出し脊髄を圧迫する原因となります。
椎間板ヘルニアはその発症様式で分類されています。T型ヘルニア(図参照)は大きな亀裂が線維輪に入り大量の髄核が漏出して発症します。通常、急性で重篤です。このタイプのほとんどは軟骨形成異常の犬で起こりますが、過剰な運動や外傷によってどの犬種にも起こります。U型ヘルニアは非常に小さな傷が線維輪に入り髄核が線維輪部分に入り込み膨らみができて発症します。U型のヘルニアは線維組織の変性によって最も良く起こりますが、軟骨の変性によっても起こります。通常、このタイプのヘルニアは慢性でT型に比べ発見がずっと困難です。

脊髄は外側の「白質」層と内側の「灰質」層からできています。白質層は神経線維から、灰質層は神経細胞からできており、両方ともに緊密な神経間連絡と豊富な血液の供給があります。損傷が生じた時、放置しておくと脊髄に致命的なダメージを与えてしまう一連の分解酵素が働き始めます。脊髄は酸素とグルコース(唯一のエネルギー源)の欠乏に非常に弱く、それらを供給する血液が血管の断裂や閉塞で止まるとすぐに死に始めます。このような損傷からの回復の程度は、酸素とグルコースの欠乏時間と神経組織のダメージの大きさによります。脊髄は死ぬと融解し、融解した状態を軟化症と呼びます。一度このような変化が起きてしまうと二度と元には戻りません。神経組織を少しでもたくさん生かすには、出来るだけ早く処置することです。治療効果は損傷の程度により異なります。小さな損傷によるほんのわずかな機能障害なら薬剤療法だけで充分に回復します。大きな損傷にはより強力な治療が必要でしょうし、手術が必要になるかもしれません。
椎間板ヘルニアによる神経系の障害は物理的にも生理的にも色々な形で現われます。血液供給が血管の損傷、圧迫、血管収縮因子(損傷を受けた血管から放出される)などにより阻害され、酸素とグルコースの不足をきたします(無酸素症または低酸素症)。また、損傷により血液や神経組織から分解因子が放出されます。分解がすすむと神経組織は融解し、脊髄軟化症を引き起こし、回復は不可能です。大きな衝撃を受けた時に発症する急性のT型椎間板ヘルニアでは、慢性のU型ヘルニア(徐々に圧力を受けある程度の機能は脊髄が代償可能)よりも大きな障害が残ります。そのため急性のT型椎間板ヘルニアではU型よりも治療後の運動は厳しく制限されます。神経系への直接傷害に加えて、ヘルニアを起こした椎間板は自分自身の免疫系から攻撃される可能性があります。正常な髄核は血液も直接供給されておらず完全に隔離されているので、自分自身の免疫系は髄核が自分の体の一部であるとを学習できていません。そのため、髄核が脊髄腔から漏出すると、免疫系はそれを異物とみなし攻撃し始め炎症が起こります。炎症はすでに傷ついた神経系の障害を更に大きくしてしまいます。
どんな犬種であっても椎間板ヘルニアを起こします。特に、外傷による発症がよく認められます。軟骨形成異常の犬では、生涯を通じて椎間板ヘルニアを発症する危険性が非常に高くなります。種々の犬種における椎間板ヘルニアの発生頻度を調べると、スタンダード−とミニチュア−ダックスフンドが最も危険性が高く、次いでペキニーズという結果でした。ダックスフンドのおよそ4匹に1匹は一生の間に椎間板に関連した障害を発症すると言われています。軟骨形成異常の犬の椎間板ヘルニア発症の頻度は3歳から7歳の間で最も高く、非軟骨形成異常(類線維症)の犬では8歳から10歳の間で最も高くなります。性差は認められていません。椎間板傷害の徴候は、どの椎間板がどの程度の損傷を受けるかによっても、どの神経系がどの程度の影響を受けるかによっても随分違ってきます。
脊髄への圧力が徐々に増加するとU型のヘルニアを発症し、その病状は一定のパターンで進みます。これは、神経線維の大きさによって圧迫に対する感受性が異なっているためです。長い神経線維は圧迫に対する感受性が高く、短い神経線維は感受性が低くなります。神経学的な検査から、脊髄または神経根の損傷の程度、回復の可能性、適切な治療方法の目処をつけることができます。
最長の神経線維は固有受容体性感覚神経(筋の緊張や関節の屈曲などの変化のよって生じる感覚をつかさどる神経)線維です。固有受容体性感覚神経は最も圧力に対する感受性が高く、ほんの少し脊髄に圧力が加わっただけで消失してしまい、運動失調が認められるようになります。神経学的検査上、固有受容体性感覚神経の消失だけしか認められないとき、通常、予後は非常に良好です。
次に長いのは運動神経線維でもう少し強い圧力で機能を失います。運動神経線維が中等度の損傷を受けると筋力が弱くなり不全麻痺と呼ばれる状態になります。一般に、不全麻痺の予後は良好ですが、正常な機能を回復させるためにはより強力な治療と手術が必要です。重篤な症例では筋力と機能が完全に麻痺してしまいます。麻痺がある場合、もしいくらかでも脊髄の機能を回復させたいのであれば、迅速かつ強力な治療、手術、薬剤療法が必要で、予後はかなり慎重を要します。
皮膚表面の知覚神経線維は比較的短く、非常に大きな力が加えられた時に機能を失います。ですが、犬は感覚の有無をしゃべることができないので、このような異常を見いだすことは非常に困難です。この場合、保存療法はほとんど奏功しないので、できるだけ早く強力な治療や手術を受ける必要があります。
最も短い神経線維は最も圧力に強く、深部痛覚(筋、骨膜、関節、結合組織に由来)を伝達します。深部痛覚は強い力が骨や関節などにかかった時に感じる痛みです。深部痛覚の欠如は瀕死の臨床症状ですが、脊髄が回復不能なまでダメージを受けたと判断する前に深部痛覚を感じなくなってどのくらいの時間が経つのかを調べる必要があります。
T型椎間板ヘルニアも、脊髄を圧迫する点ではU型椎間板ヘルニアと同じです。I型椎間板ヘルニアでは脊髄損傷が急激に起こりますが、症状は慢性のU型と同じように進行します。ただ、進行の速度が速いだけです。運動失調の段階であれば、予後は良好です。それ以上症状が進んだ運動障害にはより強力な薬剤療法や外科手術が必要となります。深部痛覚の欠如は大変重篤な末期症状です。
T型椎間板ヘルニアは突発的に起こります。一度に大量の髄核が脊柱管へ入り込む衝撃で脊髄は最初のダメージを受け、その後、入り込んだ髄核により圧迫されて、更にダメージを受けます。このような状態になると神経伝達系はほとんど破壊されてしまいますが、即座に治療・手術をすれば決して回復不可能というわけではありません。脊髄に重篤な損傷を受けると、非常に短い時間の間に深部痛覚を失ってしまいます。獣医師はまず犬の傷害の程度を知るために、犬の爪先を箝子で挟み痛覚の有無を調べます。(訳注:痛覚がある場合再び歩けるようになるのは75%ぐらい、無い場合であっても50%ぐらい)痛覚のない状態には(1)上向性痛覚神経路の断裂から深部痛覚の欠如(回復不可能)、(2)神経伝達だけの障害(言い換えると神経線維は生きていて即座に適切な処置、手術を施せば正常にまで回復可能)、(3)あまりにも痛みがひどいために、新たに加えた痛覚刺激に反応を示すことが出来ない(深部痛覚は正常)があります。これらの「深部痛覚の消失」状態を正確に区別できる方法は残念ながらありません。できるだけ多くの神経組織を保護しできるだけ多くの機能を回復させるために私たちができる最良の治療方法は、薬剤療法と手術で最善を尽くし、深部痛覚が回復するのを見守ることだけです。中には、深部痛覚が回復するかどうかも分からないのに手術にお金をかけられないという飼い主も居ます。このような場合は、薬剤療法を強力に施した後数時間以内に再度検査を行い、深部痛覚回復の可能性を見極めることです。可能性があるなら、再検査後すぐに手術します。しかし、手術を遅らせたために失ったものは計り知れないほど大きいでしょう。一般に、深部痛覚の無い状態が長く続くけば続くほど予後は悪くなります。急性の脊髄損傷の研究は進んでおり、深部痛覚の欠如が24時間以上続くとほとんど脊髄が断裂していることが調べられています。しかし、深部痛覚の有無の判断は主観によるため、48時間以内であれば薬剤治療や外科手術を行う価値は充分あるのです。
椎間板損傷による痛みには線維輪最外層に由来する痛み、髄膜由来の痛み、神経根由来の痛み等があります。脊髄自身には感覚神経は分布していませんが線維輪最外層には分布しているので、線維輪に大きなストレスがかかったり裂傷が生じると椎間板性の非常に強い痛みが起こります。痛むからといって常に椎間板ヘルニアを発症しているとは限りません。脊髄を保護している髄膜に分布している感覚神経によっても痛みは生じます。脊髄の圧迫に伴なって髄膜も圧迫されます。また、髄核による炎症が惹起されると、非常に強い髄膜痛が起こります。椎間板ヘルニアを発症し、椎間板が神経根を圧迫することによっても非常に強い痛みが生じます。これは神経根痛と呼ばれ、各神経根特有の症状が認められます。
犬で最も多いのは頸椎と胸腰椎椎間板ヘルニアで、非常に幅広い症状を示します。先に述べたように、頸部の脊髄の回りには隙間があって椎間板が突出してきてもそれほど脊髄は圧迫されないので、ほとんど症状を示さないか、示したとしても中等度の障害で済みます。それに比べて、胸腰部ではこのような脊髄の回りの隙間がほとんど無いため頸椎椎間板と同じ程度のヘルニアであっても衝撃や圧力が直接脊髄に伝わるので非常に大きな障害をもたらします。U型の椎間板ヘルニアのように圧力が徐々に加わっていくような場合、脊髄は失われていく機能をかなり補完することができます。ところが、T型ヘルニアのように急激に圧力が加わる場合には、ほとんど機能を補完できないのです。残念ながら、胸腰椎椎間板ヘルニア発症の頻度は頸椎椎間板ヘルニアよりも高いのが現実です。
頸椎椎間板疾患の主な症状は首の痛みです。犬は首の筋肉を縮めて動かすのを嫌がり,頭を低くして食べたり飲んだりできなくなります。また、首に触れたり動かそうとするとあまりの痛みに泣き叫びます。その姿は甲羅から頭を少しのぞかせた亀を連想させます。歩くときには首の痛みを少しでも和らげるため頭を低く背を丸め首をまっすぐ保とうとします。この様子から、往々にして背中の痛みと誤診されることがあります。椎間板性の痛み(椎間板由来、髄膜由来、神経根由来)全部が生じているのでしょう。頑固な痛みは薬剤療法で良くなりますが、治療を止めるとぶり返すという典型的な経過をたどります。頸部では、かなりの量の椎間板が脊柱管の中に突出しても、運動神経や自己受容刺激の麻痺には至りませんが、ひりひりする痛みは残ります。治療は突出した椎間板を手術によって除去することが唯一の方法です。もし大量の椎間板が突出したら、運動失調か運動不全が見られます。一般には四肢すべてが影響を受けますが、その程度は非常に幅広く、もし椎間板が片側にのみ突出したとすると突出した側の半身だけが影響を受けます。首の下部において椎間板ヘルニアが起きると、前足又は後足が麻痺します。幸い深部痛覚を失うほどの頸椎椎間板ヘルニアを発症することは非常に稀です。
胸腰椎椎間板ヘルニアは頸椎よりも頻繁に発症します。胸腰部では頸部のような脊髄の回りのスペースがほとんど無いため、脊髄にもろに圧力がかかってしまうためです。もちろん例外はありますが、前肢は影響を受けないのが普通です。椎間板が膨らみ始めたばかりで未だ脊柱管内に突出していないときでも、痛みのために背中を丸くして歩きます。このような時に抱き上げたりすると激しい痛みのために泣き叫びます。通常、このような状態では動くことを嫌がります。もっと脊髄に圧力が加わると後肢の運動不全と不全麻痺が起き、後肢がぐらぐらしたり爪先を引きずったりします。この時点ですぐに手術すれば、非常に良好に回復します。更に脊髄が圧迫されると後肢が麻痺し、放っておくと深部痛覚をも失ってしまいます。手術は椎間板ヘルニア発症の初期に行うのが最も効果的です。時間が経てば経つほど手術後の機能回復は望めなくなり、大きな後遺症が残ってしまいます。
たまに胸腰部の脊髄損傷が前肢の症状として現われることがあります。ほとんどの場合、例えば脊髄の破壊やT型ヘルニアの場合、症状はすぐに出ます。腰椎上部の脊髄には運動神経が前方の頸と胸部に伸びており、首や前肢の筋肉に繋がっています。これらの運動神経線維が損傷を受けると、前肢を固く伸ばし頭を大きく後ろに反らしたままになります。又、深部痛覚も失われます。これはシッフ=シェーリントン症と呼ばれ、かつては回復不可能な脊髄軟化症と考えられていました。しかし、これは間違いで、すぐに強力な薬剤療法と手術を受けてさえいれば多くは回復可能なのです。今なおこの症状が回復不能であると誤解されているため、不必要に多くの犬が薬殺されているのは残念なことです。とは言うものの、適切な治療を施したにもかかわらずシッフ=シェーリントン症が続いたり、どんな理由があるにせよ治療が遅れこの症状が続いた場合、待っているのは「死」です。
椎間板ヘルニアは血統、年齢、性別等の背景や機能不全の病歴、頸部と胸腰部の神経学的検査によって診断されます。診断を確定するためには、脊椎のレントゲン写真が必要です。椎骨と椎間板の厚みを正しく診断するには、犬をまったく動かなないように固定しレントゲン撮影を行う必要があります。そのため、通常麻酔下にレントゲン撮影を行います。身体的な異常、例えば心臓疾患等、がある場合には安全を期して麻酔をかけない方が良く、当然手術はできないので薬物療法のみを行うことになります。薬物療法では椎間板ヘルニアの位置を特定する必要はありません。
麻酔下、犬を横にした状態で脊髄全部をカバーするようにレントゲン写真を撮ります。獣医はそれらの写真から椎骨と椎間板の厚みの変化を調べます。変化には狭くなった椎骨間隔、くさび型に変形、椎間板又は椎間孔の石灰化、関節包の狭小化等があります。しかし、髄核が石灰化しているからといって必ずしもヘルニアを発症しているとは限りません。ヘルニアを発症した椎間板はレントゲン写真で判別できるほど石灰化していない場合が多いのです。そのため、レントゲン写真だけから突出した椎間板の正確な位置を知ることは困難です。このような場合、病状を悪化させる危険性がありますが、脊髄造影を行います。
脊髄造影ではレントゲン写真で見ることのできる造影剤をクモ膜下腔の脳脊髄液中に注入します(訳注:全身麻酔が必要で、脊髄の圧力が過度に高まると脳への障害が起きやすく大変な診断作業となる。最近ではCTやMRIの普及によって必要性は減少しているが、脳脊髄液のブロックや神経根の 変化を調べるには最適の方法である)。脊髄造影写真では、脊髄中を線路のように平行に走る2本の線が見えます。椎間板ヘルニアの部分では髄核と破れた線維輪が脊柱管に突出し脊髄を圧迫しているので、正常では平行な二本の線が互いに近づくか離れるかというふうに乱れています。脊髄の左右どちら側がより強く圧迫されているのかを調べるために斜めからの撮影も行われます。脊髄造影写真を注意深く調べ、突出している椎間板の大きさや方向、それによって脊髄に加わる圧力を推定し手術する部位も判断します。
軟骨形成異常の犬の飼い主は獣医師と椎間板ヘルニア発症の危険性について話し合っておくべきです。そうすれば、生後早い段階から椎間板ヘルニアを起こしにくいような生活習慣、例えば過度のジャンプをしない・させない、また肥満させない等に留意することができます。航空機用のケージ等の中でもおとなしくしていられるようにも訓練できます。このようなことで椎間板発症の危険性を拭い去ることは出来ませんが、発症を抑えることはできます。
椎間板ヘルニアの痛みを示し始めの頃でまだ歩くことができる時は、線維輪が自然に治癒するまでケージの中に入れ運動を制限し安静にすることが必要です。痛み止めのコルチコステロイドを使用する場合は絶対安静にするべきです。というのは、コルチコステロイドによって患部から発せられる「動かないで!」という痛みの信号がブロックされてしまうからです。ヘルニアを発症する寸前の状態では、たった一度ソファーから飛び降りただけで回復不可能なほど大きい損傷を脊髄が受け下半身が完全に麻痺してしまいます。ケージに入れて安静にしていることはそれほど大きなストレスにはなりません。むしろ、運動させて椎間板ヘルニアを発症することの方が恐いのです。傷害を受けないようにするため、ケージの中で安静にしていてもしすぎることはないのです。ただし、あまりに小さすぎるケージではかえって逆効果になるので注意して下さい。
椎間板ヘルニアによって運動機能不全になると足を引き摺るので、荒い床(地)面から四肢を保護してやらないと擦り傷ができてしまいます。飼い主が犬の行動を直接見守ることができないときは、クッションのよい敷物を敷いたケージに入れておくべきです。外では足のカバーを着けると良いでしょう。一度擦り傷が出来てしまうと完治することはなかなか難しいのでです。それよりも予防する方がずっと簡単です。
椎間板ヘルニアは後肢への運動神経に損傷を与えるだけでなく排尿や排便機能にも障害を与えます。そのため、これらの機能にも注意する必要があります。実際、椎間板ヘルニア発症後、排尿障害がしばしば認められます。尿路感染を防ぐために、一日に4から5回膀胱を手で絞って排尿してやる必要があります。排便障害は排尿障害ほど大きな問題ではありませんが、注意が必要です。必要であれば、便を柔らかくします。
麻痺した犬は皮膚の炎症と尿焼けを起こしやすいので、寝床は常に清潔に保ち、身体も定期的に洗ってやる必要があります。皮膚の防水軟膏も有効です。また、床擦れ(褥創性潰瘍)を防止するためにクッションの良いベッドを用意して下さい。一旦潰瘍が出来てしまうと、広がって全身的な炎症が起こり易く、生命の危険があります。これを治療するよりも予防する方がはるかに簡単で安全です。
脊髄の損傷に対しては強力な薬剤療が行われます。特にT型の椎間板ヘルニアのように急性の場合は、先に述べた脊髄を破壊する分解系を止めることが重要です。脊髄損傷を抑えコントロールするためにコルチコステロイドが第1選択薬として用いられます。現在よく使われているのはメチルプレゾニゾロン・ナトリウム・サクシネート(Solu-Merol R; アップジョン)で、今まで用いられてきたコルチコステロイド・デキサメサゾン(Azium; シェーリング)に比べ、副作用(消化管出血、過剰な水分消費・排尿)が弱く、強い抗炎症作用を有しています。酸素は神経組織の生存に決定的な役割をしているので酸素マスク又は酸素ケージは大変有効です。マンニトールやグルコースなどの高浸透圧剤は脳損傷に対しては効果が有りますが、脊髄損傷に対してはそれほど効果は有りません。というのは、高浸透圧剤は脊髄を圧迫している椎間板に対してそれほど減容効果を示さないからです。しかし、重篤な症例で脊髄の腫れを抑えるのには有効です。他に、数多くの医薬品、例えば麻薬拮抗剤(ナルコティック−アンタゴニスト)やカルシウムチャンネルブロッカー等が脊髄の保護に用いられています。それらのうちいくつかは損傷後数分以内に投与すると非常に効果があります(いつもそのように投与できるといいのですが)。残りは、最初の損傷に対しては直接の効果はありませんが、長期にわたり脊髄損傷を抑える働きがあります。どの薬剤を併用するかは、個々のケースによって異なります。
U型ヘルニアのように脊髄に圧力がゆっくりと慢性的に加わる場合、脊髄は非常に大きな補完能力を発揮します。先に述べたように、身体機能不全は一定の段階(運動失調→不全麻痺→麻痺=補完不可能)を追って進み、圧力の増加に比例して進行も速くなります。この場合、急性のヘルニアのように全体が一気に傷害を受けるのではなく”細胞が一個づつ影響を受ける”ので、損傷を修復する時間的な余裕があります。それで、症状として現れているのは損傷の一部の可能性があります(脊髄の状態は症状よりもずっと悪い場合がある)。長期にわたり脊髄が圧迫され重篤な機能障害がある場合には、手術が非常に上手くいったとしても回復はほとんど期待できないでしょう。最も良い治療法は多くの機能が失われる前、特に深部痛覚が失われる前に圧力の増加を食い止めることです。急性のT型ヘルニアは、発症後早い段階で減圧手術を施せばかなり回復します。特に脊髄の圧迫がひどい場合は、たった数時間の遅れであってもその予後は非常に悪くなります。
ヘルニアを発症後、犬が不快感や運動失調を示す場合には、安静と理学療法の組み合わせが有効です。少しでも麻痺の徴候が認められたら、もっと積極的に治療するべきです。不全麻痺、ひどいときには麻痺していたとしても、充分な時間をかければ手術しなくても機能を回復した例がたくさんあります。しかし、発症の初期に手術を受けた犬に比べると機能の回復には遥かに長い時間が必要で、将来新たな傷害を受けた場合、すでに脊髄に大きな傷を持っているので回復した機能をたやすく失ってしまいます。その結果、初期に手術を受けた犬に比べ障害の程度は非常に大きくなってしまいます。
脊椎に適用される手術には、大きく分けて減圧、固定、予防的な椎間板開窓術の三つの方法があります。非常にまれですが、椎間板ヘルニアによって脊椎がぐらぐらする場合には、固定手術が必要になります。減圧手術は椎骨に穴を開け脊柱管の中を直接調べて脊髄を圧迫している椎間板等を除去するものです。椎間板ヘルニアの状態と部位に応じて適切な減圧手術が選択されます。
頸部における減圧手術には大きく分けて2つの方法があります。(1)背側から切開し首の後ろ(上)側の筋肉を避けて椎骨に至る背側椎弓切除手術と(2)気管、食道、神経血管束を脇に寄せて脊椎に至る腹側到達法(人では前方)です。ほとんどの椎間板ヘルニアは脊柱管の方(背側、人では後方)へ突出しているので、それを除去するには腹側から切開する方が優れています。突出した椎間板が脊髄に沿ってずり上がって(又は下がって)いる場合にも、腹側切開では簡単に除去可能です。しかし、腹側切開の場合には、複数の連続した椎間板ヘルニアの場合、安全に手術を行うことができません。このような場合には、背側切開で椎骨の安定性を保持しながら複数の椎間板のスペースを確保できます。しかし、椎間板は脊髄の下側に突出しており、脊髄を傷つけることなくこれを安全に取り除くことは難しく、脊髄の除圧だけを行い突出した椎間板はそのまま放置することになります。将来、残した椎間板が元で炎症を起こしたり病状が悪化する危険性があります。最近、頸部の側方切開が行われていますが、頸椎椎骨の開窓手術は腹側(前方)からのみ行われるので腹側切開に比べメリットはほとんどありません。
胸腰部においても頸部と同じように背側椎弓切除術にて脊髄の減圧が可能ですが、突出した椎間板を除去できないという同じ欠点があります。同時に予防的開窓術を行うためには広範な筋肉の除去が必要です。通常行われるのは背側側方又は側方切開手術(背骨の横から手術する方法)で、ヘルニアを起こした椎間板、関節面、及び椎弓根側部に到達します。関節面を除去することで側方から脊柱管に入ることができ、椎弓と椎弓根の片側半分を切除する片側椎弓切除手術が可能です。手術した側の脊柱管に突出した椎間板を容易に除くことが出来ます。しかし、突出した椎間板が脊髄に沿うように入り込んでいたり切開した側とは反対側に突出している場合には、脊髄を傷つける恐れがあるので取り除くことは困難です。このため、椎間板がどちらの方向に突き出ているのかを知ることは非常に大事です。神経学的検査と脊髄造影に基づいてどちら側から片側椎弓切除手術を行うかを慎重に判断します。予防的な開窓術は、側方切開で容易に行うことができますが、腹部切開(前方到達術)では困難です。というのは、腹部と胸部の両方を切開する必要があり、脊椎の下(腹側)には大動脈が通っており、また、この部位で骨ドリルを使用することは非常に危険で、側方切開に勝るメリットは何も無いからです。後方切開においても、同じ理由で予防的な椎間板の開窓術は困難です。
開窓術は、腹側(頸部)又は側方(胸腰部)の線維輪に穴を開け、そこから髄核を取り除く手術法の一つです。この方法で、将来ヘルニアを起こしそうな部位の髄核を取り除いて予防することも行われます。(頸椎の2番目から7番目、胸椎の11番目から腰椎の4番目までで行われることが多い)。椎間板ヘルニアの手術と同時に行われる予防的な開窓術については賛否両論があります。否定派は、上手に行わないと大動脈を傷つけてしまう危険性、椎間板の感染のため椎間板性脊椎炎を引き起こす危険性、椎骨終板を傷つけ骨形成性変性を起こし神経根を圧迫する危険性、飛び出している髄核すべてをきれいに除去することは難しく残った髄核によってヘルニアを再発する危険性、、開窓術を施した部分の両隣にある椎間板により大きな負荷がかかることによるヘルニア再発の危険性を主張してています。他方、賛成派は、犬の生涯において椎間板ヘルニアを2度も発症する頻度は非常に小さいという調査結果から、予防的な開窓術は行う価値があり、椎間板ヘルニアではなくても椎間板変性の痛みを椎間板開窓手術によって取り除くことができ、また、胸腰部の側方切開と頸部の腹側切開では同時に開窓手術を行うことが出来るので再手術の必要が無い、といったメリットを主張しています。もし脊髄を傷つけること無く開窓術が行われるなら、将来のヘルニア発症を予防できるでしょう。筆者個人としては、予防的な開窓手術を支持し脊髄を傷つけること無しに手術できるなら非常に価値のある方法であると信じています。
理学療法によって機能回復を速くすることができます。水泳は体重の負荷がかからずに四肢を自由に動かせる最も適した運動です。体をきれいにして皮膚の感染を防ぐ効果もあります。また、ぬるいお湯は四肢の血液循環を良くし、筋肉のマッサージ効果もあります。ほとんどの軟骨形成異常症の犬は、体が浮いて爪先がつかないくらいのぬるま湯を張った浴槽に入れて構いません。ただし、放っておいて溺れたりしないよう充分注意して下さい。水泳運動は手術後4-5日から始めるとよいでしょう。手術の傷はワセリン等で「防水」しておきます。犬が疲れるくらいまで運動させてから、引き上げ完全に乾かします。犬に持久力がついて来るにつれて運動時間を毎日長くします。水泳は1日1回でも充分ですが、1日2回行うともっと良いでしょう。これは、飼い主がどれくらいの時間を割けるかに依存します。
他に、飼い主が犬の腹部をタオルや三角巾等で持ち上げ飼い主の横を歩かせる「タオル歩行」は対麻痺(両下肢及び下半身の麻痺)の場合にも行うことができます。後肢に少し体重がかかるようにして、運動神経と筋肉を刺激します。筋肉マッサージをしたり関節を動かしたりすることも、筋肉の萎縮や関節の拘縮を防ぐ効果があります。これは、犬を仰向けに寝かせ、前肢と後肢を「自転車のペダリング」のように動かして行います。このように関節を可動範囲いっぱいに動かすことによって、関節をしなやかに保ち筋肉の衰えを防ぐことが出来ます。麻痺した足のマッサージは血行を良くし、犬も気持ち良く感じます。
市販品でも自作のものでもカート(補助車)は、麻痺した犬の運動能力を補助し、犬の日常生活をより行動的にすることができますが、理学療法のような効果はありません。飼い主が、犬を完全にカートに委ねてしまうと、その犬が自分で歩く姿を二度と見ることは出来ないでしょう。カートは麻痺した犬を扱いやすくしてくれますが、看護と理学療法に取って代わるものではないのです。
時々、胸腰椎脊髄軟化症(完全に麻痺)であっても後肢に残っている交叉伸筋反射を使って歩くことを学習する犬がいます。運動神経が脳と繋がっていなくてもこの反射は起こり不随意筋の運動を引き起こします。これは四肢でよく見られることです。数多くの理学療法例において、このような犬たちは最初体をゆすって後肢を掴もうとすることから交叉伸筋反射を使って歩くことを学習していきます。このような歩行を脊髄歩行と呼び、格好はあまり良くはありませんが立派に歩行できています。残念ながら、現実は多くの胸腰椎脊髄軟化症の犬は永久に麻痺したままです。ほとんどの飼い主は麻痺した犬の適切な介護にそれほど多くの時間を割くことが出来ず、その結果、脊髄反射で歩ける可能性を見極める前に安楽死させられてしまうのです。
脊髄の損傷はダックスフンドの主要な疾患です。飼い主がこの疾患の原因と結果を知り、犬に過度のジャンプをさせない様に、また、体重を適切にコントロールすることによって、非常に重篤な疾患を未然に防ぐことが出来ます。もし脊髄損傷を起こしてしまったときには、すぐに獣医師の診断を仰ぎ早急に治療・手術を受けることでより良い治療効果が得られ、機能も良く回復するでしょう。